去年 講談社に応募した作品ですが、お話しの結末を思いついた時、自分で考えた お話しなのに感動して泣いていました。(仕事中)
絵本が完成した時には、とうとう傑作を描きあげてしまったと思いました。
なのに なのに 、結果は一次通過しただけでした。いつもなら、一次通過しただけでも 飛び上がって喜ぶのに、その時は 喜べませんでした。
だって 傑作だと思っていたし、私たちのデビュー作になると確信していたのに。その確信は いったいなんだったのか… そして私はブログで公表することを決意したのでした。
「たいりょうあみ」どうぞ読んでください。
むかしむかし あるところに、五平という名の若者が おったのじゃ。
五平は働き者で、気だての良さが取り柄でのう。皆から とても好かれておったのじゃ。
ワシは 独り暮らしの年寄りで、この先 長くないと思っての。
ワシの大事な お宝 たいりょうあみを、好きに使えとやったのじゃ。
五平は たいそう喜んで、海に出ては 網を投じ。
山に入っては、網を投じ。毎日 大量に持ち帰っては、皆にも分けてやったのじゃ。
ところがそのうち、畑が荒れ放題になってのう。とうとう牛の世話も、せんようになってしまったのじゃ。
楽しみにしておった ワシとのお茶にも、顔を出さんくなってしまった。
ある日 ワシは、イライラした五平の顔を見て 思い出したんじゃ。
今の五平は、若かりし頃の ワシと同じ顔をしておる。心の無い顔じゃ。
こりゃあいかん。このままでは、五平の心が、たいりょうあみに捕らえられてしまう。こうしてはおられん、五平から たいりょうあみを取り上げにゃあならん。
その夜、さっそく 五平の家へ行っての。「たいりょうあみは、お前にやったのじゃが、ちと時期が早かったようじゃ。もうしばらくワシが 預かっておくことにする。」「何をするんだ じいさん。渡すもんか、これは俺のもんだ。」慌てた五平が、灯りを倒してしまっての。あっという間に火が広がって、消そうとしたんじゃが 間に合わなくての。
命からがら外に逃げたんじゃ。その時 牛が鳴いての「モーー」「待ってろ、俺が助けてやるからな。もう少しの辛抱だ。」五平が 牛小屋に飛び込んで行ったのじゃが、
牛小屋もすぐに火につつまれてしまっての。
このままでは、五平も牛も死んでしまう。どうすればいいんじゃ。ええい、一か八かじゃ。「たいりょうあみよ、この火を全て捕えるのじゃ。」ワシは たいりょうあみを、力いっぱい投げたんじゃ。
なんということじゃ、たいりょうあみは 凄まじい勢いで、火をかき集めていくではないか。しかし同時に、たいりょうあみは、捕らえた火によって燃え尽きて、灰となってしまったのじゃ。
「じいさん ごめんよ。俺のせいで、大事な たいりょうあみが燃えちまった。」
「五平よ、これで良かったのじゃ。お前も 牛も 無事じゃったではないか。これで良かったのじゃ。」
しばらくすると、五平は元気になって、以前のように よく働くようになった。冬までに新しい家を建てるのだと張り切っておる。これで良かったのじゃ、本当に。
ワシか?ワシも元気じゃよ。この先短いなんてことはない。何しろワシは決めたのじゃ。五平の幸せを、見届けねばならんとね。
おしまい。