返却は9月だと思ってたけど、早々と よねばあちゃんが帰ってきました。
よねばあちゃん、お疲れさま。落選は残念だったね。
「ええよ。東京まで行けて、楽しかったよ。さすが東京やね。もしかしたら ヒデキに会えるかもしれんと思ったけど。よう考えたら、ヒデキは東京には おらんかったわ。もう あの世に行っとったわ。男前やったからなあ、それだけが心残りやなあ……」
よねばあちゃん 、よねばあちゃん、おしゃべりはそのくらいにして、本題に入りましょうよ。
「そうやった、そうやった。皆さんに読んでもらうんやった。
【よねばあ と カモキチ】 です。どうぞ〜。」
昔々 ある村に、よね と言う名前の おばあちゃんが住んでおりました。
ある日 川で洗濯をしていると、茂みからガサガサ音がします。
茂みを かき分けると、そこには ケガをしたカモが隠れていました。
よねばあ は、カモを大事に抱えて帰りました。
ご飯を食べさせて、温めてやりました。
村人たちは、そのカモで カモ鍋にしようと持ちかけましたが、よねばあ は「カモキチに何かあったら、わしは生きていけねえ。」と言うもんですから、村人たちは とうとうカモ鍋を諦めることにしました。
おじいさんが亡くなってから 元気のなかった よねばあ に、笑顔が戻ってきました。 村人たちは、それを喜んでいたのです。
ところが ある晩のこと、村に盗っ人が忍び込み、村人たちの大事なものを盗んでいきました。
「おいらのヘソクリが無くなっただ」「私の お気に入りのカンザシが無くなってる」
「おっとうの形見の壺が…」怒るもの、がっかりするもの、必死に探すものが おりましたが、
皆が よねばあ を心配しました。カモキチが盗まれてしまったのです。村人たちは皆、カモキチは今ごろ カモ鍋になって 盗っ人に食われちまった と思いましたが、そのことを口に出す者は、おりませんでした。
よねばあ は、家の中に引きこもってしまい、とうとう寝込んでしまいました。村人たちは 何とか慰めようとしましたが、よねばあ には伝わりません。
ところが ある日、カモキチが ひょっこり帰ってきたのです。その時の よねばあ と言ったらもう…
喜ぶのもつかの間、カモキチは羽をバタバタ 騒ぎ立て、村人たちに付いて来いと言うのです。
皆でカモキチの後をついていくと、なんと そこには 盗っ人がいるではありませんか。
実は 村に盗っ人が忍び込んだ夜、勇敢にもカモキチは 後をつけて、隠れ家を突き止めたのです。
「なんて賢い カモなんだべ」「私の大事なカンザシが戻ったわ」「カモキチ たんと食え、腹へったろう」村人たちは皆 喜んで、カモキチを誉めるのでした。
よねばあ は もう、嬉しくて 嬉しくて 嬉しくて、それはもう 嬉しくて。
それからというもの、村では カモをペットにするのが流行りでして。
現代では、犬を可愛がるのが 流行りでして。
犬のことを 愛犬などと言いますが、カモのことも アイガモと言うのだとか、言わないのだとか……
おしまい。